
2025年10月にProduct Huntで1位を獲得したParallax が、分散AIクラスター界隈で注目を集めています。以前当ブログで紹介したexo と同じコンセプトを持ちながら、異なるアプローチを取っているこのツールについて、両者の違いを中心に紹介します。
Parallaxとは?
Parallax は、Gradient Network が開発している分散型推論エンジンです。家庭にある複数のデバイスをAIクラスターとして統合し、単体では動作できない大規模モデルを動かせるようにします。
主な特徴:
- 完全な分散アーキテクチャ: マスター・ワーカー構成ではなくP2P接続
- パイプライン並列モデルシャーディング: モデルを自動分割
- クロスプラットフォーム対応: Mac、Linux、GPUデバイスで動作
- 動的リクエストスケジューリング: 高性能な推論を実現
技術スタック:
exoとの比較
2つのツールは同じ目的を持ちますが、アプローチに違いがあります。
共通点
- 分散推論の実現: 複数デバイスでモデルを分割実行
- 自動デバイス発見: ネットワーク上のノードを自動検出
- ChatGPT互換API: OpenAI API互換のエンドポイント提供
- クロスプラットフォーム: Mac、Linux対応
- P2P構成: 中央サーバー不要の分散構成
主な違い
1. 推論エンジンの選択肢
exo:
- MLX(Mac向け)
- tinygrad(GPU向け)
- PyTorch(開発中)
- llama.cpp(計画中)
Parallax:
- SGLang(GPU向け)
- MLX LM(Mac向け)
exoの方が推論エンジンの選択肢が豊富です。特にtinygradは軽量で柔軟性が高く、様々な環境で動作します。
2. ライセンス
- exo: GPLv3(コピーレフト型)
- Parallax: Apache 2.0(パーミッシブ型)
Parallaxは商用利用により適したライセンスを採用しています。
3. サポートモデル
exo:
- LLaMA、Mistral、LLaVA、Qwen、DeepSeekなど幅広く対応
Parallax:
- DeepSeek V3.1、R1
- MiniMax-M2
- GLM-4.6(Kimi)
- Qwen3-Next、Qwen3、Qwen2.5
- gpt-oss(OpenAIのオープンウェイト版)
- Meta Llama 3シリーズ
Parallaxは企業パートナーシップにより、最新モデル(DeepSeek R1、gpt-ossなど)への対応が迅速です。特にQwen 、SGLang 、Kimi 、MiniMax 、Z AI とのパートナーシップが公式サイトで明示されています。
4. KVキャッシュ管理
- exo: 基本的なKVキャッシュ実装
- Parallax: Mac向けに動的KVキャッシュ管理+継続バッチング
Parallaxはメモリ効率と推論速度の最適化により注力しています。
5. コミュニティとエコシステム
exo(2024年9月リリース):
- GitHub Stars: 32.7k
- Forks: 2.2k
- Contributors: 51人
- より実験的で草の根コミュニティ主導
Parallax(2025年10月リリース):
- GitHub Stars: 964
- Forks: 95
- Contributors: 18人
- 企業主導で戦略的パートナーシップ重視
exoの方がコミュニティ規模は大きいですが、2025年3月以降は開発ペースが落ち着いています。
exoのその後
当ブログでexoを紹介 してから約1年が経ちました。その間の主な進展:
- 安定性の向上: 初期の接続不安定性が大幅に改善(2025年2月頃)
- モデル対応拡大: DeepSeek V3、Qwen3など最新モデル追加
- パフォーマンス改善: メモリ管理とレイヤー分割の最適化
- grpcライブラリの更新: 通信ライブラリの継続的なメンテナンス
最新バージョンはv0.0.15-alpha(2025年3月1日リリース)です。2025年3月以降は開発ペースが緩やかになっており、最後のコミットは2025年10月30日です。Issue数(378件)やPR数(75件)を見ると、コミュニティからの要望は多いものの、メンテナンス体制が追いついていない印象です。
どちらを選ぶべきか?
exoが向いているケース
- 実験的な環境で様々な推論エンジンを試したい
- 草の根コミュニティの活発な開発に参加したい
- tinygrad、llama.cppなど特定のエンジンを使いたい
- GPLv3ライセンスで問題ない
Parallaxが向いているケース
- 最新の企業向けモデル(DeepSeek R1、gpt-ossなど)をすぐに使いたい
- 商用利用を視野に入れている(Apache 2.0)
- SGLang、MLX LMの最適化された実装を活用したい
- 企業のサポート体制を重視する
まとめ
Parallaxとexoはどちらも「家庭内デバイスで分散AIクラスター」という革新的なコンセプトを実現していますが、アプローチが異なります。
exoは多様な推論エンジンと活発なコミュニティを武器に、実験的で柔軟な環境を提供します。一方Parallaxは、企業パートナーシップと最適化されたバックエンドにより、最新モデルへの迅速な対応と商用利用適性を強みとしています。
個人的には、両方試して比較するのが最も有益だと思います。どちらもインストールが簡単で、セットアップの手間はほとんどかかりません。使用感の違いを実際に体験することで、自分のユースケースに最適なツールが見つかるでしょう。
興味のある方はぜひ試してみてください。