2025年のBlockchain 業界を振り返ると、象徴的だったのは「技術がプロダクトとして触れる形になった」ことでした。
長らく議論されていたAccount Abstraction(アカウント抽象化)はEIP-7702としてメインネットに載り、断片化していたLayer 2はSuperchainとしてつながり、DeFiはHooksによってアプリケーション層を取り込みました。
本記事では、「仕様策定」や「テストネット」ではなく、実際にメインネットで稼働し、ユーザー体験を変えた技術実装にフォーカスして2025年を振り返ります。
1月:Bitcoinが「決済+資産」レイヤーへ
2025年は、Bitcoinが単なる「デジタルゴールド」から、Lightning Network上で実用的な資産決済を行うインフラへ進化した月で始まりました。
1月:Taproot Assetsのメインネット本格稼働
Lightning Labs開発のTaproot Assets が、主要なウォレット(Strike, Phoenix等)でサポートされ始めました。
技術的なポイントは、BitcoinのUTXOモデルを維持したまま、Taprootスクリプトツリー内に資産メタデータを埋め込む実装が、Lightningチャネル上でステート遷移として扱えるようになった点です。これにより、ユーザーは「BTCをGas代として払いながら、ステーブルコインを即時決済する」体験を、L2やサイドチェーンではなくBitcoinネイティブなセキュリティの上で享受できるようになりました。
2月:Layer 2の「壁」が技術的に消滅
2月は、Layer 2間の分断(フラグメンテーション)が、ブリッジや外部サービスではなく、プロトコルレベルで解消へ向かった月でした。
2月:Optimism Superchain Interoperabilityの実装
Optimism エコシステム(Base, Zora, Mode等)で、ネイティブな相互運用機能が有効化されました。
これは従来の「Lock & Mint」型ブリッジとは異なり、すべてのOP StackチェーンがL1上の単一のブリッジコントラクトを共有する設計によって実現されています。結果として、ユーザーはウォレット上で「チェーンを切り替える」意識すらなく、Base上のUSDCでZora上のNFTを購入するといったクロスチェーン・トランザクションが1クリックで完結するようになりました。
3月:DeFiが「アプリ」を取り込む
3月は、DeFiプロトコルが単なる「交換所」から「金融ロジックの実行環境」へと進化した月でした。
3月:Uniswap v4 “Hooks” エコシステムの開花
Uniswap v4 のリリースから数ヶ月、その真価であるHooks(フック)を活用したプールが次々と稼働しました。
技術的には、プール作成時にbeforeSwap / afterSwap / beforeModifyPositionなどのタイミングで外部コントラクトを呼び出す仕組みです。2025年3月には、以下のようなHooksが実用化されました:
- TWAMM Hook: 大口注文を自動的に時間分散し、価格インパクトを抑える
- Limit Order Hook: オンチェーン指値注文をプール自体が管理する
- Dynamic Fee Hook: ボラティリティに応じてスワップ手数料を自動調整する
これにより、DEXは「板情報のない自動販売機」から、CEX(中央集権取引所)並みの機能を持つ「プログラム可能な流動性レイヤー」へと進化しました。
4月:ウォレット体験の革命(Pectra Upgrade)
4月は、Ethereumの大型アップグレード「Pectra」(Prague-Electra)がメインネットに適用され、ウォレットの在り方が根本から変わりました。
4月:EIP-7702によるEOAのスマートアカウント化
Pectraの目玉である EIP-7702 が導入されました。
これは、既存のEOA(Metamask等の通常のアドレス)に対し、トランザクション実行中のみスマートコントラクトコードを一時的に「セット」する機能です。これにより、ユーザーは資産を新しいスマートコントラクトウォレット(SCW)に移動させることなく、以下の機能を即座に利用できるようになりました:
- Gas代の代払い(Sponsoring): アプリ側がGasを負担
- バッチ処理: 承認(Approve)と交換(Swap)を1回の署名で実行
- セッションキー: 特定の操作のみを許可した一時的な鍵の発行
「ウォレットを作り直す」という最大のハードルが技術的に解消された瞬間でした。
5月:共有セキュリティの市場化
5月は、セキュリティそのものが「商品」として流通し始めた月でした。
5月:EigenLayer AVSの実稼働
EigenLayer 上で、複数のAVS(Actively Validated Services)がメインネット稼働を開始しました。
Ethereumバリデータが、自身がステークしたETHを再利用(Restaking)して、他のサービスのセキュリティも担保する仕組みです。5月には、EigenDA(データ可用性層)だけでなく、分散型シーケンサー、オラクル、ブリッジ監視ネットワークなどがAVSとして稼働し、「独自のバリデータセットを集めることなく、Ethereum級のセキュリティを持つミドルウェア」を構築するパターンが定着しました。
6月:RWAの「プログラム化」
6月は、現実資産(RWA)が単にトークン化されるだけでなく、DeFiのレゴブロックとして組み込まれた月でした。
6月:BlackRock BUIDLのDeFi統合
BlackRockのトークン化ファンド「BUIDL 」が、USDCなどのステーブルコインとの原子的な交換(Atomic Swap)や、レンディングプロトコルの担保として利用可能になりました。
技術的には、許可型(Permissioned)トークンでありながら、ホワイトリスト済みのスマートコントラクト(DEXプールやLendingプール)との対話を許可する設計が進みました。これにより、「米国債の利回りを得ながら、必要に応じて即座に流動化してクリプト投資に回す」という機関投資家向けのワークフローが、オンチェーンで完結するようになりました。
7月:分散型ソーシャルの「アプリ内アプリ」
7月は、SNSが「投稿を見る場所」から「アプリを使う場所」へと変質しました。
7月:Farcaster Frames v2の普及
分散型SNSプロトコルFarcaster の機能拡張であるFrames v2が普及しました。
これは、フィード上の投稿内にインタラクティブなミニアプリを埋め込む規格(OpenGraphタグの拡張)です。7月には、フィード内で「NFTのMint」「ゲームのプレイ」「アンケート投票」「少額決済」が完結するようになり、ユーザーはアプリを切り替えることなくWeb3的なアクションを行えるようになりました。Walletの署名プロセスもFrame内に統合され、UXの摩擦が極限まで下がりました。
8月:オフチェーン計算の信頼性確立
8月は、ブロックチェーンの外で行われた計算を、中だけで検証する技術が実用段階に入りました。
8月:ZK Coprocessorの採用拡大
Axiom やBrevis といったZK Coprocessor(ゼロ知識コプロセッサ)が、主要なDeFiプロトコルで採用されました。
これらは、過去の全トランザクション履歴の集計や複雑な計算をオフチェーンで行い、その結果が正しいことのZK証明のみをオンチェーンに提出します。これにより、「過去1年間の取引量に応じたVIPレートの適用」や「複雑なデリバティブ価格の計算」といった、従来のスマートコントラクトではGas代的に不可能だったロジックが実装可能になりました。
9月:並列処理EVMの実力証明
9月は、EVM(Ethereum Virtual Machine)のパフォーマンス限界を突破する実装が登場しました。
9月:Monadのメインネットローンチ
並列実行EVMを特徴とするL1チェーンMonad がローンチしました。
Monadは、楽観的並列実行(Optimistic Parallel Execution)と非同期I/Oアクセスを実装し、既存のEthereumツール互換性を保ちながら10,000 TPSを達成しました。これにより、高頻度取引(HFT)やオンチェーンゲームなど、従来はSolanaなどの非EVMチェーンでしか実現できなかったユースケースが、EVMエコシステム内で可能になることを証明しました。
10月:インテント中心アーキテクチャの定着
10月は、ユーザーが「トランザクションを作る」ことから解放された月でした。
10月:UniswapX / CowSwapの標準化
UniswapX やCowSwap に代表される、「トークンAをBに交換したい」という意図(Intent)だけを署名し、実際のルート探索やGas支払いをソルバー(Solver)と呼ばれる第三者に委託する形式が、DEX取引の過半数を占めるようになりました。
技術的には、ERC-7683 (Cross Chain Intents)のような標準規格の採用が進み、異なるチェーン間でもソルバーが最適ルートを見つけて実行する環境が整いました。ユーザーは「どのチェーンにGasがあるか」を気にする必要がなくなりました。
11月:Starknetの量子耐性とスループット
11月は、ZK-Rollupの雄であるStarknetが、大幅なパフォーマンス改善を実施しました。
11月:Starknet v0.14 “Quantum Leap”
Starknet が大規模アップグレードを実施し、シーケンサーの並列処理化と証明生成の効率化を行いました。これにより、トランザクションコストがEIP-4844導入時よりもさらに一段階下がり、マイクロペイメントやオンチェーンゲーム(Autonomous Worlds)が現実的なコストで稼働し始めました。
12月:Ethereumの次なる姿(Glamsterdam)へ
12月は、2026年に予定される「Glamsterdam 」アップグレードに向けた仕様が固まった月でした。(詳細な予習記事はこちら )
12月:ePBS(EIP-7732)の実装合意
次期アップグレードの中核となるePBS(Enshrined Proposer-Builder Separation / EIP-7732 )の実装詳細が合意されました。
現在はMEV-Boostという外部ソフトウェアに依存しているブロック構築の分離を、プロトコルレベルで組み込む(Enshrine)ものです。これにより、検閲耐性が向上し、バリデータの役割がよりシンプルになります。2025年末には、この仕様に基づいたクライアント実装の開発が本格化しました。
まとめ:UXは「隠蔽」され、インフラは「統合」された
2025年のWeb3技術を振り返ると、**「ユーザーから複雑さを隠蔽する」**ための技術実装が揃った1年でした。特に、L2の定着とIntentsの普及により、ユーザーがガス代を意識する機会が激減したことは特筆すべき変化です。
- EIP-7702: 秘密鍵管理やガス代支払いの抽象化(アプリ側負担の容易化)
- Superchain / AggLayer: チェーン間の境界を隠蔽
- Intents: トランザクション失敗リスクとガス管理を隠蔽
- Hooks: 金融商品の複雑さを裏側にカプセル化
2026年は、これらの「見えなくなったインフラ」の上で、Web2アプリと遜色のない体験を持つコンシューマー向けアプリ(Consumer Crypto)が花開く年になるでしょう。
