
2025年のAI 業界とWeb3 業界を振り返ると、それぞれが独自の進化を遂げた1年でした。しかし、2026年に向けて本当に面白くなるのは、この2つの領域が相互作用を起こし始めるところです。
AIエージェントがスマートコントラクトを操作し、オンチェーンAIが分散型インフラ上で動き、トークンエコノミーがAI開発を加速する。2025年までに揃った技術的な土台の上で、2026年はこうした融合が「実験」から「実用」へ移行する年になるでしょう。
本記事では、2025年のAI業界総括(DeepSeekショックから始まった激動の1年 )とWeb3業界総括(プロダクトとして実装された技術たち )を踏まえつつ、「AIとWeb3が交わる未来」を大胆に予測します。
予測1:AIエージェントがウォレットを持ち、自律的に経済活動を行う ★★★★☆
技術的基盤が揃った
2025年までに、AIエージェントとブロックチェーンの融合に必要な要素が揃いました。
AI側の準備:
- エージェントが複数のツールを使い分ける能力(MCP 、A2A Protocol )
- 長時間の自律実行(Copilot agent mode、Kiro autonomous agent)
- 推論能力のデフォルト化(o3、Claude 4、Gemini 2.5、GPT-5)
Web3側の準備:
- ウォレット体験の革命(EIP-7702によるEOAのスマートアカウント化)
- Gas代の抽象化(Sponsoring、セッションキー)
- クロスチェーン・トランザクションの簡素化(Superchain Interoperability、Intents)
2026年に起こること
Q1〜Q2: エージェント専用ウォレットプロトコルの登場
既存のスマートアカウント(EIP-7702 、ERC-4337 )をベースに、エージェント専用のウォレット仕様が登場します。特徴は以下の通りです:
- 予算制限: 1日あたりの支出上限を設定できる
- 許可リスト: 特定のスマートコントラクトのみと対話可能
- 監査ログ: すべてのトランザクションが人間にレビュー可能
- 緊急停止: 問題が起きた際に即座に停止できる
Q3〜Q4: 実用ケースの拡大
エージェントが自律的に行う経済活動の例:
- DeFi自動運用: 利回り最適化のため、複数プロトコル間で資金を移動
- NFT代理購入: ユーザーの指示に基づき、OpenSea やBlurで入札・購入
- データ販売: エージェントが生成したレポートやモデルをオンチェーン市場で販売
- 報酬の自動分配: 複数のエージェントが協力したタスクの成果報酬を自動分配
実現を加速する要素
Model Context Protocol(MCP)のエージェント連携
2025年12月、AnthropicがMCPをLinux Foundation傘下のAgentic AI Foundation に寄贈しました。これにより、ウォレット操作を標準化されたMCPサーバーとして実装し、複数のAIエージェントから統一的に利用できるようになります。
EIP-7702の柔軟性
EIP-7702により、既存のEOAが「トランザクション実行中のみ」スマートコントラクトコードを適用できます。これは、エージェントが必要なときだけ高度な権限を持つことを可能にし、セキュリティリスクを最小化します。
予測2:オンチェーンAI推論市場の実用化 ★★★☆☆
分散型AIインフラの成熟
2025年、オープンウェイトモデル(DeepSeek 、Qwen、Kimi K2、gpt-oss)と推論エンジン(vLLM、SGLang)の普及により、自前でAIを動かす選択肢が現実的になりました。
同時に、Web3側では共有セキュリティの市場化(EigenLayer AVS)が進み、「Ethereumバリデータが副業でミドルウェアのセキュリティを担保する」仕組みが稼働しました。
2026年に起こること
Q2〜Q3: AI推論をAVSとして提供
EigenLayer のRestaking機構を使い、AI推論サービスがActively Validated Service(AVS)として登場します。
仕組み:
- ノードオペレーターがGPUクラスタを用意し、推論エンジン(vLLM/SGLang)で特定のモデル(Qwen3、Llama等)をホスト
- EigenLayerにステークしたETHを担保として、推論結果の正確性を保証
- ユーザーはオンチェーン経由で推論リクエストを送り、結果を受け取る
- 不正な推論を提供したノードはスラッシング(ステーク没収)される
実用例:
- DeFiプロトコルが、価格予測やリスク評価をオンチェーンAIに委託
- NFTプロジェクトが、画像生成をオンチェーンで検証可能な形で実行
- DAO投票で、提案内容をAIが分析し、投票者に要約を提供
検証可能性の実現
ZK証明との組み合わせ
2025年8月、Axiom やBrevis といったZK Coprocessorが実用化しました。2026年は、これがAI推論にも適用されます。
- オフチェーンでAI推論を実行
- その推論が正しく行われたことのZK証明のみをオンチェーンに提出
- Gas代を抑えつつ、検証可能性を確保
これにより、「AIの出力を信頼できるか」という課題が、ブロックチェーンの検証機構によって解決されます。
予測3:トークンエコノミーがAI開発を加速する ★★☆☆☆
データとモデルの所有権が明確化
2025年まで、AIモデルの訓練データや学習済みモデルの権利関係は曖昧でした。2026年は、Blockchain による所有権の明確化が進みます。
Q2〜Q3: データNFTとモデルNFT
- データNFT: 訓練データセットをNFT化し、使用権をライセンス販売
- モデルNFT: 学習済みモデルをNFT化し、推論APIアクセス権を販売
- 貢献者トークン: データ提供者やアノテーターに、利用実績に応じた報酬を自動分配
実例イメージ:
- 医療画像データセットを提供した病院が、データNFTの所有者として登録
- AIスタートアップがそのデータを使ってモデルを訓練
- モデルが商用化されるたび、スマートコントラクトが自動的にロイヤリティを病院に分配
オープンソースAIの持続可能化
2025年、DeepSeek-R1やQwen3がオープンソースで公開されましたが、開発コストをどう回収するかは課題でした。
Q3〜Q4: “Open but Monetized” モデル
- モデルはオープンウェイト(誰でも利用可能)
- 商用利用時はオンチェーン経由でライセンス料を支払う仕組み
- 支払いは自動化(スマートコントラクト)され、透明性が高い
これにより、「オープンであること」と「持続可能な開発」が両立します。
予測4:Web3プロダクトのUX改善をAIが加速 ★★★★★
2025年の課題
Web3の最大の課題はUXの複雑さでした。EIP-7702やIntentsで技術的には解決されつつありますが、「何ができるのか分からない」「失敗が怖い」という心理的ハードルは残っています。
2026年に起こること
Q2〜Q4: AIアシスタントがWeb3の「翻訳者」になる
ユースケース1: 自然言語でDeFi操作
ユーザー: 「このトークンを1000ドル分買って、安全なプールで運用して」
AIエージェント(内部処理):
ユースケース2: リスク説明の自動化
スマートコントラクトを実行する前に、AIが:
- コントラクトコードを静的解析
- 過去のトランザクション履歴を参照(ZK Coprocessor経由)
- リスクを自然言語で説明(「このプールは監査済みですが、担保率が低めです」)
ユースケース3: クロスチェーン操作の簡素化
ユーザー: 「ArbitrumのUSDCでOptimismのNFTを買いたい」
AIエージェント:
- Superchain Interoperabilityを使ってクロスチェーン・トランザクションを構築
- ガス代を最適化(L2ブリッジ vs 直接スワップ)
- 1回の署名で完結
実現を支える技術
Vibe Codingの応用
2025年2月、Andrej Karpathyが提唱した「Vibe Coding 」は、「コードを書く」より「意図を伝える」ことに重点を置きました。
2026年は、この概念がWeb3にも適用され、ユーザーは「何をしたいか」を伝えるだけで、エージェントが最適なトランザクションを構築します。
予測5:「分散型AI + DAO」による集合知の実装 ★★★☆☆
DAOの意思決定をAIが支援
2025年まで、DAOの投票参加率は低く(多くの場合10%以下)、意思決定の質も課題でした。
Q3〜Q4: AI-Powered Governance
- 提案の要約: 長文の提案をAIが自動要約し、投票者の負担を軽減
- 影響分析: 提案が可決された場合のシミュレーションを実行(財務への影響、トークノミクス変化等)
- 個別推奨: 各投票者の過去の投票履歴から、好みに合う提案を推奨
実装イメージ:
- NotebookLM のような「資料理解AI」が、DAO提案を解析
- Deep Researchのような「調査AI」が、関連する過去の議論や外部情報を収集
- 結果をオンチェーンで保存し、投票者がレビュー
分散型AIの訓練
Q4: Federated Learning × Blockchain
複数のノードが協力してAIモデルを訓練するFederated Learning(連合学習)が、ブロックチェーンで管理されます。
仕組み:
- 各ノードがローカルデータで学習(データは共有しない)
- 学習結果(勾配)のみをオンチェーンに提出
- スマートコントラクトが勾配を集約し、グローバルモデルを更新
- 貢献度に応じてトークン報酬を分配
利点:
- データプライバシーを保ちつつ、大規模モデルの訓練が可能
- 貢献が透明に記録され、インセンティブ設計が容易
まとめ:2026年は「融合元年」になる
2025年までに、AIとWeb3はそれぞれの領域で実用的な土台を築きました。
- AIは「賢い回答器」から「調査・操作・生成を束ねるエージェント」へ
- Web3は「仕様策定」から「メインネットで稼働するプロダクト」へ
2026年は、この2つが相互作用を起こし、実用的な価値を生み出す年になります。
予測のまとめ:
- AIエージェントがウォレットを持ち、自律的に経済活動を行う ★★★★☆(Q1〜Q2)
- オンチェーンAI推論市場の実用化 ★★★☆☆(Q2〜Q3)
- トークンエコノミーがAI開発を加速する ★★☆☆☆(Q2〜Q3)
- Web3プロダクトのUX改善をAIが加速 ★★★★★(Q2〜Q4)
- 「分散型AI + DAO」による集合知の実装 ★★★☆☆(Q3〜Q4)
もちろん、これらはすべて「大胆な予測」です。技術的な課題(セキュリティ、スケーラビリティ、規制)も多く残っています。
しかし、2025年の振り返りから見えるのは、「モデルが出た」「仕様が決まった」という発表よりも、実際にメインネットで動き、ユーザー体験を変えた実装こそが次の変化を生むということです。
2026年、AIとWeb3の融合が「実験」から「実用」へ移行する過程を、一緒に見届けましょう。
参考リンク
- AI業界2025年総括: DeepSeekショックから始まった激動の1年
- Web3業界2025年総括: プロダクトとして実装された技術たち
- EIP-7702: Set EOA account code for one transaction
- ERC-4337: Account Abstraction
- A2A Protocol - GitHub
- DeepSeek
- EigenLayer Documentation
- Agentic AI Foundation - Linux Foundation
- Axiom - ZK Coprocessor
- Brevis Network
- Optimism Superchain Explained
- NotebookLM