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Mar 8, 2026 - 日記

MEV投資戦略: SearcherとしてMEVを獲得する全体像

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最近、Ethereum 周りを追っていると、MEV (Maximal Extractable Value)という言葉を避けて通れなくなりました。

MEVは「チェーン上の取引から追加利益を抜く」話なので、投資というよりトレーディング戦略に近い領域です。

自分が最初にMEVを追い始めたとき、「結局どのプレイヤーが、何を根拠に、どこで利益を取っているのか」が整理できずに迷子になりました。

この記事では、話を追いやすいように、

  • MEVが何か(まず用語と発生源)
  • MEVのプレイヤーと市場構造(誰が儲けて、誰が負担するか)
  • 「MEVを獲得する」ための投資戦略(資本配分、期待値、勝ち筋、リスク管理)

だけに絞って、全体像を作ります。

注意: 本記事は教育目的の解説であり、特定の銘柄・商品・取引の推奨ではありません。MEVは損失や法務・倫理リスクもあります。

MEVとは: ブロックの「並べ替え」から生まれる価値

MEVは一言でいうと、ブロックに入るトランザクションの順序(ordering)や、取捨選択(inclusion / exclusion)をコントロールできる立場に生まれる追加利益です。

昔はMiner(採掘者)がブロックを作っていたので「Miner Extractable Value」と呼ばれていましたが、今はPoSでバリデータが提案するため、より一般化して「Maximal」と呼ばれることが多いです。

典型例は以下です。

  • アービトラージ: DEX間(または同DEX内)の価格差を、取引順序の工夫で確実に取る
  • サンドイッチ: ユーザーのスワップの前後に自分の取引を挟み、ユーザーのスリッページを自分の利益にする(倫理面も含めて賛否あり)
  • 清算: レンディングの清算を誰が先に実行するか、という競争

ここで重要なのは、MEVは「突然湧く魔法の利益」ではなく、だいたいの場合、

  • 取引ユーザーが払う(不利な約定、スリッページ、手数料)
  • プロトコルの設計によって漏れる/回収される

という形で発生する、という点です。投資として見るなら「誰が最終的に回収する構造か」を押さえるのが近道です。

MEVを獲得するのは誰か: Searcher / Builder / Validator

MEVを「獲得する」目線では、プレイヤーを分けて考えるのが一番わかりやすいです。

雑に言うと、現在のEthereumの主流は PBS (Proposer-Builder Separation)で、ブロックの「提案者」と「構築者」を分離しています。

flowchart LR
  U[User tx] --> P[Public mempool]
  U --> PR[Private orderflow]

  P --> S[Searchers]
  PR --> S

  S --> B[Builders]
  B --> R[Relays]
  R --> V[Proposer / Validator]
  V --> C[(Ethereum)]

  B -- "payment (MEV bid)" --> V

補足: “Private orderflow” は、取引を公開メンプールに流さず、特定の経路(ソルバー/リレー等)に直接渡す仕組みを指します。狙いは、サンドイッチのようなメンプール起点の攻撃や、不要なガス入札競争を減らすことです。

ざっくり役割はこうです。

  • Searcher: 機会(アービトラージ/清算など)を見つけ、実行方法を作る
  • Builder: たくさんの取引候補を組み合わせ、「最も価値が高いブロック」を組み立てる
  • Relay: BuilderとValidatorの間の中継(検証や配布の役割を持つ)
  • Proposer/Validator: ブロック提案を行い、Builderからの支払いを受け取る

MEVを自分で獲得するなら、あなたは基本的に Searcher 側に立ちます。

  • Searcher: 取引機会を発見し、実行トランザクション(bundle: 複数取引をまとめたセット)を作る
  • Builder: たくさんのSearcherのbundleを集めて、最も価値の高いブロックを作る
  • Relay: BuilderとValidatorの中継
  • Proposer/Validator: ブロック提案を行い、Builderからの支払い(bid)を受け取る

重要: Searcherの利益は「見つけた機会の粗利」ではなく、

  • Builder/Validatorに払う入札(bribe: ブロックに入れるための支払い)
  • 失敗時のコスト(ガス、競争負け、再試行)
  • インフラ固定費

を引いた後の純利益です。

また、PBSは現状では MEV-Boost のようなミドルウェアに依存しています。 将来的には、EIP-7732 (ePBS)でプロトコルに組み込む動きがあります。

関連記事: Ethereum Glamsterdamアップグレード(2026年予定)の概要と主要機能

MEV投資戦略の前提: これは「高頻度トレード事業」

MEVは、株で言うと「インデックス投資」ではなく、どちらかというと

  • 低遅延インフラを使う裁定取引
  • オークション(入札)で順番を買う
  • アドバース・セレクション(不利な情報の押し付け)と戦う

みたいな世界です。

なので、MEVの投資戦略は「銘柄選び」ではなく、次の3つを同時に設計する話になります。

  1. 何のMEVを狙うか(戦略カテゴリ)
  2. いくらまで入札するか(資本配分と期待値)
  3. どうやって負けを最小化するか(リスク管理)

1. 戦略カテゴリ: まず押さえたい6種類

MEVには色々ありますが、まずは分類だけ覚えると地図ができます。

  1. Backrun(後追い): ユーザー取引の直後に実行して利益を取る(例: アービトラージ)
  2. Arbitrage(裁定): DEX間/プール間の価格差を取る
  3. Liquidation(清算): レンディングの清算競争
  4. JIT Liquidity(JIT流動性): ブロック単位で流動性を差し込む(高度、競争激しめ)
  5. Sandwich(挟み込み): 典型的だが倫理・対策・競争の面で難度が高い
  6. Long-tail(ロングテール): マイナーなプール/新規トークン/仕様の穴など

最初に取り組みやすいのは、一般に「Backrun/Arbitrage」です。理由は、

  • 成否判定が比較的はっきりしている
  • シミュレーションで検証しやすい
  • 失敗の原因分析ができる

からです。

2. 入札戦略: 「いくら払っても勝つ」ではなく「最大入札」を決める

MEVは、機会を見つけた後に オークション があります。

ざっくり言うと、同じ機会を複数のSearcherが狙ったとき、

  • 一番高く払うSearcherが勝つ
  • ただし高く払いすぎると勝っても儲からない

というだけのゲームになりがちです。

最初に入れておきたい概念は「最大入札(max bid)」です。

最大入札は、雑にこう考えると事故りにくいです。

1
2
3
max_bid = expected_gross_profit
          - expected_costs
          - safety_buffer

ここで costs はガス代だけではなく、

  • シミュレーション誤差やリオーグ(reorg: チェーンの巻き戻り)で想定が崩れるリスク
  • 競争負けで再試行するコスト
  • 固定費(ノード/帯域/実行環境)

も含みます。

そして「max_bidを超えたら追わない」を機械的にやるのが、MEVにおける投資戦略の土台です。

3. 勝ち筋(エッジ)の作り方: 速度より先に順序を整える

MEVは速度ゲーに見えますが、最初に詰まりやすいのは速度以前のところです。

エッジはだいたい次のどれかです。

  1. 情報: より早く/より良いオーダーフローが取れる(private orderflowなど)
  2. 予測: シミュレーション精度が高い(失敗率が低い)
  3. 執行: 送信経路が強い(builder/relay最適化、入札設計)
  4. 資本: 競争期間を耐えられる(ただし資本だけだと消耗戦)
  5. 発見: ロングテールを見つけ続ける(研究力/データ力)

最初は「2.予測(シミュレーション精度)」を主戦場に寄せると安定します。勝率が上がると、入札の期待値が見積もれるようになり、資本配分ができるようになります。

4. ポートフォリオ戦略: 1戦略1本足は死にやすい

MEVは、同じ戦略が長く続くことが少ないです。

  • うまくいくと競合が増える
  • 対策が入る
  • 市場構造(builder集中、ルール変更)が変わる

結果として、1つの戦略だけに賭けると「勝てる期間が短い」問題が出やすい。

投資戦略としては、

  • メイン: 再現性のあるBackrun/Arbitrage
  • サブ: ロングテール探索(当たれば大きいが不安定)

のように、時間軸と期待値の違う戦略を混ぜるのが現実的です。

5. リスク管理: MEVは「損失が突然大きくなる」

MEVは、負けが積み上がるタイプのリスクがあります。

  • 競争激化で、勝率は同じでも入札額だけ上がり期待値が悪化
  • 想定外の状態変化でシミュレーションが外れ、一撃で損失
  • スマコンやノードの不具合で、連続的にミスる

最低限のリスク管理としては、

  • 1日/1時間あたりの損失上限(キルスイッチ)
  • 戦略ごとのmax_bidの自動更新
  • 送信ルートの複線化(1本死ぬと終わる)

を先に作る方が、速度最適化より効きます。

6. 学び方(安全な順)

いきなり実弾でやると「学費」が高すぎます。段階を踏むのが現実的です。

  1. 事後分析: どんなMEVが起きたかをデータで眺める
  2. シミュレーション: 過去ブロックを再現して、自分の戦略が勝つ条件を探す
  3. 小額・限定: 取引サイズ/頻度/損失上限を絞って本番検証

7. 参考リンク

まとめ

  • MEVは「ブロック内の順序/取捨選択」から生まれる価値で、Searcherはそれを獲得する側です。
  • MEVの投資戦略は、戦略カテゴリ選び・max bid設計・リスク管理をセットで考える必要があります。
  • 「速度」より先に、シミュレーション精度と損失上限(キルスイッチ)を固めた方が生存率が上がります。